【感想・レビュー】『コーダ ~あいのうた~』①音のある/ない世界【ネタバレあり】

映画

音のある世界/音のない世界①

 この「音のある世界」「音のない世界」が完全に分離していればよいのだがそうもいかない

 序盤、家族が学校終わりのルビーを迎えに来る。

 しかし耳が聞こえないため、車からすごい爆音で音楽を流していても平然としている。

 学校の生徒からは白い目で見られているが、父・フランクは響きが気持ちいんだと語る。

 ルビーは音量を思いっきり下げ、急いで出発するように伝える。

 

 

 このエピソードからも「音のある世界」「音のない世界」には大きな祖語が生まれていることがわかる。

 いくら爆音であろうが聞こえないため関係ないと思えてしまう家族、そしてそれを笑うクラスメイト。

 笑い声や嘲笑を聞こえない家族にとっては切り離された世界の話であるし、コーダではないクラスメイトも「音のない世界」とは距離がある以上は別世界の話である。

 しかし、「音のある世界」と「音のない世界」を行き来するルビーにとっては別世界の話と分けることは難しい

 そんな中で周りの目を気にし、家族への理解と戦い続けてきたのだ。

 この狭間で生きていたことは知らない間にもストレスへと変わっていたのだと思う。

 「音のない世界」で完結した生活を送ることは難しく、家族が生きていくためには「音のある世界」と付き合うことは免れない。

 そのため「音のある世界」「音のない世界」の架け橋をルビーが担ってきていた。

 しかし、架け橋であることはルビーにとって負担であったのは間違いない。

 特に高校生という多感な時期に、「通訳」として家族に尽くさなければならないことはストレスであろう。

 病院にて父と母の性病についてルビーが語らなくてはならないということや、漁業の売上をめぐった政府との対談にて父の強い言葉を代表して伝えなくてはいけない。

 それらを女子高生が担わなくてはいけないということは精神的負担がかかることだろう。

ルビーの居場所

 ストレス発散かつ、お金がないなかで見つけた趣味が「歌」であった。

 彼女が合唱クラブに加入したのも、好きな音楽を身近に感じたかったに違いない。

 ルビーにとっての居場所は「歌」であったのだ。

 歌をきっかけにルビーは変化していく

 初めは人前で歌うことや指導を受けることを恥ずかしがっていたが、次第に緊張がほぐれていきルビーはその実力を発揮する。

 素の自分で歌えるようになってきてから、学校やクラスメイトに溶け込めるようになる雰囲気がある。周りのクラスメイトもルビーの実力を認め始めていたのだ。

 ただその大切な居場所でさえも、結果的に侵食されてしまうこととなる。

 V先生の推薦を受けマイルズとデュエットを提案される。

 しかし、その後2人での練習をしていないことを指摘されたため、ルビーの家で練習する運びとなる。

 もともとルビーはマイルズを気になっていたが、その男子を家に呼び、大好きな歌(しかもデュエット)を練習できるのである。

 恋愛に発展するような甘い展開。この勢いでキスでもするんではないかと息を飲むシーンである。

 そんな中、隣の部屋から大きな音がするので覗きに行くと、両親が激しいセックスをしていた。

 これはルビーらが歌っている「音」に気付かなかったこともそうだし、自分たちが行為中の「音」にも気づくことはできなかった。これも「耳が聞こえない」という障壁を抱えている部分が大きい。

 この事件を契機にルビーはマイルズと距離を空け、また家族との間にも亀裂が残ってしまう。

 「音のある世界」と「音のない世界」に挟まれた結果である。

 せっかく歌以外にマイルズという居場所をつくれそうであったにもかかわらず、その機会を事故とはいえ失ってしまったのだ。

 

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