家族と居場所
一方で家族の仕事面では、政府のやり方に耐えかねた父親が協同組合を提案する。
母・ジャッキーは設立に最後まで「音のある世界」を自分たちに理解できない世界だと拒絶する。
そこで父・フランクはルビーに通訳を依頼する。
これまで以上に「音のある世界」と「音のない世界」を繋いでもらおうとしたのだ。
母は特に顕著だが、「音のある世界」との関わり以前に「音のない世界」側が「音のある世界」への抵抗があるためルビーがその溝を埋めるほかなかった。
「音のない世界」から歩み寄ることはなく、ルビーが動くことで距離を縮めていたにすぎない。
またルビーは家族にかなり頼られているが、「音のある世界」へと繋ぐ役割の人物が高校生のルビー以外にいないという問題も浮き彫りになってきた。
母の反対はあったものの、自分たちの生活を守るために協同組合設立を目指し動き出す一家。
自分たちで市場を開拓するにあたって、声の出せない家族の代わりに呼び込みをし、漁師たちに提案を続け、通訳として徹し続けていた。
そんななかでも船上で楽譜を眺め、V先生のレッスンにも通い詰めた。
ただレッスン中に寝てしまう、遅刻を繰り返すなど、だんだんと仕事と音楽の両立に綻びが見え始める。
V先生とのレッスンも3回遅刻し、次回遅刻したらもう面倒は見ないと言われてしまう。
ある日、協同組合の仕事を終えレッスンに向かおうとすると、突如母からテレビの取材があるから仕事に参加してほしいと言われる。
次遅刻をしたら面倒を見ないと言われてしまった以上、ルビーはレッスンに行こうとする。
ただ家族を見捨てるという選択ができなかったルビーは取材に協力するという選択をとる。
その代償にV先生はもう指導はしないという態度を見せる。
しかし、V先生は遅刻をした・準備をしてこないという結果に対して怒っていたのではなかった。
「挑戦を怖れる生徒に教えたところでムダだ」
ルビーの大学へ進学するという意思の弱さと、挑戦するという気概が足りないことを指摘した。
一番最初に合唱クラブでルビーが逃げてしまったように、新しいことへの挑戦から逃げようと、自分に立ちはだかる困難な課題から目を逸らしたことを問題視したのだ。
彼女は心のどこかで「家族からは離れられない」と感じていたし、家族もルビーを求めていた。
頼りにすると聞こえはいいがルビーに依存をし、彼女を縛り続けてしまったと捉えることもできる。
そういう環境であったため自立するという考えが選択肢としてなかった。なんとなく父の仕事を引き継ぐとしか思っていなかった。
ただV先生は「歌が好き」というルビー自身の感情を尊重してほしかったのだと思う。
先生に進められるまで大学という選択肢がなかったルビーは、大学に行く意味があるのかと懐疑的な反応を示していた。
ただV先生は彼女の素晴らしい才能を生かし、「歌」をより深く知り学ぶことが大切だと思い、教師として大学を勧めた。
何より環境を理由に好きな歌を諦めるという選択肢をしてほしくなかったのだと思う。
自分の好きなもののために何かをなげうってでも挑戦をして欲しいと願ったのだった。
V先生の熱い思いが伝わり、ルビーは将来について真剣に考えることとなる。
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