『まち』「前作『ひと』との比較」【書評・感想】著者:小野寺史宜

小説

今作『まち』について

 さて、いよいよ『まち』という作品について掘り下げていこうと思う。

①続編という立ち位置

 正直な感想としては、前作『ひと』と比べてしまうと見劣りしてしまう。

 というのも今作の『まち』があまりにも日常に焦点を当てていたからである。

 この『まち』単体であれば少し評価は変わっていたかもしれない。

 ただ現行の帯に”『ひと』からつながる物語”と書いているように公式自ら続編と銘打っている。

 そのため私は期待してしまったのだ。

 人生の苦難をどう乗り越えるのか、そしてどう進んでいくのか。

 聖輔のようにドラマチックな悲劇の中でも、地道に少しずつ前を目指し、自分に人生をひたむきに頑張る生き様を求めてしまっていた。

 そんな求めていた物語像と『まち』の主人公・瞬一は性質が離れていたという要素が挙げられる。

②主人公への共感

 今作の『まち』で主人公となった瞬一への共感がいまいちできなかったというのも大きな要因である。

 前作『ひと』の主人公・聖輔相手で共感できる要素が多々あった。

 まず自分ではどうしようもない死が周りに訪れてしまったこと、絶望に打ちひしがれているなかでもお金と時間は次々と消えてしまうこと。

 聖輔は環境によって自分の将来が左右されたといってもいいだろう。

 今作『まち』主人公の瞬一も確かに両親が亡くなるという不幸を経験している。

 確かに人生において大きな事件であることは間違いない。

 ただ、その事件と瞬一の現在置かれている状況がいまいち結びつかないというのも事実なのだ。


 瞬一は東京に出るという選択をしたが、進学も就職もしないという道を選ぶ。

 ここがいまいち共感できない。

 どうしても叶えたい夢があるわけでも、なりたい職業があるわけでもない。

 就職がどうしてもしたくないわけでも、進学できないお金がないわけでもない。

 それにも関わらず、進学も就職もしないという選択が共感しにくいポイントである

 無気力な青年を描きたかったのかもしれないがあえてアルバイトを選んでいる理由も、5年目に突入している理由もいまいち納得できない。

 ここが前作と比べてしまう要素である。

 その根拠というか、瞬一がなぜアルバイトを選んだのかをはっきりと説明してくれていないために、正直微妙であると思ってしまった。

 淡々とし過ぎたあっさり小説なだけに、もう少し主人公に入り込める隙があればいいのにな、なんて思ったりした。

 というところで今回の記事は終わりにしようと思う。

 ありがとうございました。

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