社長らしからぬ姿
ボンテキュー社との合併を巡る話も精巧とは言い難い。
ジョーが参加した役員会議での議題は「ボンテキュ―社との合併」である。
スーザンの婚約者であるドリューが中心となり、合併の話を前向きに進めていた。、
しかし決定権をもつビルは、利益第一主義を掲げるボンテキュ―社とはそりが合わないとして、合併の話を棄却する。
普段の会議であればドリューも納得していたのかもしれない。
しかし、この会議の前日からジョー・ブラックという謎の男がビルに関与しており、何か悪い入れ知恵をしたのではと睨む。
ジョーが現れたこと、そしてボンテキュ―社を巡るこの事件を契機に疑いの眼差してビルを見るようになってしまう。
この一連の行動にはビルの社長らしさがかなり欠如していると思えてしまった。
もちろん社長としての権限があり、全ての決定権はビルにあるのかもしれない。
ただ今回に至ってはジョーが参加しているのである。
クッキーやミルクティーを頼み、自由気ままな発言で厳格な会議を雰囲気をぶち壊す。
傍からみたら”ヤバい奴”として表現されている。加えて素性を一切明かさない。
そんな”ヤバい奴”を側近同様に扱っているビルは怪しまれて当然である。
だからこそより丁寧に、より綿密なコミュニケーションをとることで幹部たちの疑念を払拭すべきであろう。
しかしビルはそうした説明責任を放棄してしまった。
確かにボンテキュ―社が掲げる利益第一主義はビルの考えと反するのかもしれない。
またジョーが現れたことでペースを乱されていたことは間違いないだろう。
それでも議論の余地すら与えないというのはあまりに一方的で暴虐だ。
ドリューが不信感を抱くのにも納得できてしまう。
そういう意味でも社長らしさを感じることができなかった。
こういう経緯があり、死神に付きまとわれて苦労するビルに心から共感することが難しくなってしまった。
物語中盤~終盤にかけ、ドリューはビルを社長退任に追い込み、またボンテキュ―社合併後には会社を売却してひと儲けしようとしていることが明らかになる。
自分の会社であるという誇りを抱くビルは、パーティー会場にてドリューと最終対決を行う。
ビルを不憫に感じたジョーは、自らの正体を国税局の調査員と述べ、ボンテキュ―社がこれまでの合併で脱税している疑惑を話す。
この一連の話を電話を通じて聞いていた役員はビルの社長への再任を承諾、ドリューは失脚するに至る。
しかしここでも大きな問題が残る。ひとつは話の切り出しがジョーであったということだ。
人間としての情を獲得し、ビルの窮地を救ったジョー。
ただこの脱税疑惑が出まかせであることは間違いないだろう。
これまで全く触れられてきてはないし、ジョーが国税局の調査員と名乗った際にもビルはかなり動揺していた。
そしてボンテキュ―社の脱税疑惑についてはジョーが主体となり話を進めていた。
つまり話の根拠に乏しく、ドリューに一矢報いるための嘘であるだろう。
そうであれば、結局のところボンテキュ―社との合併を拒否した理由の詳細は明らかになっていないということだ。
先に述べたように利益第一主義とは合わなかったのかもしれないが、その詳細を話す必要があっただろうし、議論の余地すらないということは大問題であろう。
「ビルが独断と偏見で合併を拒否してしまった」という結果のみが残ってしまう。
こうなってしまうと一番の被害者はドリューのように思えて他ならない。
謎の男を侍らせて、説明責任を果たさず、議論の余地すら与えてくれない社長。
不信感を抱くのも当然だ。
加え、その謎の男の登場により婚約者との離縁に結び付いてしまう。
またドリューの裏切りについても納得いかない部分がある。
もともとドリューはビルの娘・スーザンと婚姻関係であった。
加え、スーザンはビルのお気に入り。大切にしていた娘だ。
そんな彼女との関係を認めていたのであれば、ドリューはかなり良好な関係を維持したいと考えていたのではないだろうか?
義理の息子であるクインスを幹部入りさせていることからもビルはかなり血縁的な結びつきを大切にしていることだろう。
かなり高い水準での地位と名誉、生活が保障されていたはずだ。
しかしドリューははじめから会社の売却が目的だったと語っていた。
今回たまたまジョーが登場したことで風向きが変わり、ビルを失脚するに至った。
しかしジョーが現れなかった場合、そしてボンテキュ―社との合併に成功した場合には、婚姻相手の父を理由もなく裏切り、安泰な将来を放棄してまで会社売却に挑むということを意味する。
これはあまりに非合理的ではないのか。
ビルが失脚したということで成功した結果論であり、ビルの失脚がなければ権限的に叶うことのなかった夢物語であったはずだ。
計画の甘さ、そして社会的地位を捨てなくてはいけないリスクを考えると、会社の売却を考えていたドリューにはかなりの疑問が残る。
この合併を巡る話はやはり詳細の詰めが甘いと言わざるを得ない。
ただ「死と税金」のくだりについてはなかなか面白く、いい伏線回収であったといえる。
まとめ
この映画としての面白さは前半のコーヒーショップとラストのパーティー会場に詰まってしまっており、それ以外の部分は正直弱いと感じてしまった。
再三話している通り、ジョーと人間生活とのかかわりにおいて感情移入できない部分がダラダラと続くだけであり、突出した事件も感情の起伏も感じることができない。
家族での食事シーンも愛というには薄いパンチであり、日常の切り取りにしては現実離れしすぎている。また病院でのシーンも明確な意図が感じることができなかった。
そしてコーヒーショップでの男女のすれ違いから、次の山場であるパーティー会場という流れまで2時間ほどあるということがかなりつらい部分であった。もう少し何とか削れる部分があるように思えてしまう。
シーンごとにみるといい部分があったが、全体的な設定を落とし込めていない点、そして見せ場がない中盤の辛さが目立っていた作品であったと思う。
それではまたいつかの記事で。
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