【書評・感想】『お探し物は図書館まで』「小町さんと付録」作:青山美智子【2022年本屋大賞】

小説

小町さんと付録

 さて仕事の難しさについて書いてきたが、本書のポイントのひとつは「小町さんの付録」である。

 登場人物5人はそれぞれのきっかけで図書館を訪れる。

 受付ののぞみちゃんから司書である小町さんを紹介されると、その人に適した本を紹介してくれる。

 何ともいえない不思議な空気を纏っている彼女は司書として求められた書籍のほか、依頼人が必要であろう書籍を提供する。

 その際に彼女が趣味で作っている羊毛フェルトでの「付録」もプレゼントするのであった。

 小町さんに依頼した側は、紹介された書籍と「付録」の意義を考える。

 なんせ自分が求めていたものと無関係のものを紹介されるのだ。

 パソコンに関する資料を求めれば『ぐりとぐら』を紹介され、起業に関する本を求めると植物図鑑が添えられてくる。

 ミステリアスな小町さんという人物もあってか何か意味があるのではないかと考える。

 実際に書籍や「付録」がヒントとなり、人生が好転しだす。

 そう、書籍にも「付録」にも意味があったといえるだろう。

 しかしそんな特別な力も意味もなく、小町さんがただあげたいものをあげていたというのだ。

「でもね、私が何かわかっているわけでも、与えているわけでもない。

 皆さん、私が差し上げた付録の意味をご自身で探し当てるんです。

 本も、そうなの。

 作り手の狙いとは関係のないところで、そこに書かれた幾ばくかの言葉を、

 読み手が自分自身に紐づけてその人だけの何かを得るんです」

『お探し物は図書館まで』 P313 作:青山美智子 発行所:株式会社ポプラ社 

 ではなぜ登場人物たちは自分たちの人生の指標を見つけることができたのだろうか?

 それは自分で変わりたいと思ったからであると考えられる

 小町さんが紹介した書籍も「付録」もきっかけにすぎない。

 実は自分を変える・変えてくれるものというのは日常にゴロゴロと転がっているものなのだろう。

 しかし、多くの人はそれに気が付くことができない。

 あるいは気づく必要がないと考えているのかもしれない。

 自分が必要だと感じた情報だけを取り入れて、それ以外は捨てる。

 そうでもしないとやっていけないほど、この世界は恐ろしい速度でまわり、変化が激しい。

  おそらく小町さんが渡した「付録」がネコであろうが、カニであろうが、飛行機であろうが、本質的な部分で大きな変化はなかったと思う。

 心のどこかで変わりたいと思い、小さな図書館を訪れた時点でもう変わる準備はできていたのだ。

 小町さんの「付録」はそれを後押ししたに過ぎないのだ。

「付録」を”変わるきっかけ”と解釈できたからこそ、良い方向に人生が変化したのだと思う。

 小町さんが述べたように、「意味があって渡した付録」ではなく、「受け手が意味をつけた付録」であったのだ。

 それは自分たちの人生にも通ずるものであると私は考える。

 自分の人生をどう捉えるのかは自分次第。

 見方や解釈を変えればポジティブにも、ネガティブにもなる。

 どういう意味を持たせたいのか、についてたまには考えてみるのもいいのかもしれない。

 そんな「人生と仕事」について語られた一作であった。

 

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