【2020年本屋大賞】『そしてバトンは渡された』「優子と親子について」【書評・感想】著者:瀬尾まいこ

小説

2番目の母親・梨花との関係性

 森宮さんとの関係についてみるまえに、まずは優子と梨花の関係性からみていこう。

「私のそばにはなかったきらきらしたものを持ってきてくれたのが、梨花さんだった。」

『そして、バトンは渡された』P64 発行所:株式会社文藝春秋 著者:瀬尾まいこ 

 出会った初日に彼女が語ったように、優子にとって梨花ははかなり重要な人物であった。

 というのもそれまでの優子、そしてこれから先の優子にとって、指針となる人物こそが梨花さんであるからだ。

 家庭環境が複雑な優子を支えてくれる大人はさまざまいた。

 しかし優子に対し、女性として同じ目線で考える人物は梨花のみであった。

 優子の祖母や、梨花と2人で暮らしていたときの大家さん、高校の担任・向井先生なども支えてくれた大人の一人ではあった

 ただ彼女たちはあくまで自分自身を”大人”とし、優子を守るべき”子供”として接していた。

 一方、優子を”一人の女性”と扱っていたのが梨花だったのだ。

 友達のような関係性を築き、2人は仲良くしていた。お互いに愛していたことは間違いない。

 ただそれでも優子は梨花と一定の距離をとっていたというのも事実だった。

 優子は自分が全力で子供になってはいけないことをどこかで理解していた。

 特に実の父親・水戸と離別したあと、本当の母親ではないからこそ、踏み込んではいけない・甘え過ぎではいけないという精神的なブレーキがかかっていたように思える。

 また水戸の両親=優子の祖父母がか少し厳しい人間であったため、梨花と暮らしを営んでも優子自身がいわゆる「いい子」であろうとしていた。

 そして梨花が浪費家だったからこそ、自分がしっかりしなくてはという正義感を持ち、物欲を大っぴらにすることができなかった。

 わがままを言ってはいけないというセーブがあったため、彼女が心の奥に眠る人間としての本音があまりでることがなかった。


 だからこそ、そんな優子が自分から「ピアノが欲しい」といった時には梨花はものすごく喜んだ。

 これまで全くモノに対しての興味を抱かなかった優子が、ついに自分がから欲しいものを教えてくれたのだ。

「結婚ぐらいたいしたことじゃないよ。

 洋服買っても鞄買ってもちっとも喜ばない優子ちゃんが、

 ピアノは自分から欲しいって言うんだもん。

 どうしたってかなえなきゃって思うじゃない」

『そして、バトンは渡された』P202 発行所:株式会社文藝春秋 著者:瀬尾まいこ 

 親としての責務を全うしようと梨花は全力投球をする。その結果が、泉ヶ原さんとの結婚であった。

 結婚を決意し、上記のような発言をするほど、優子が物欲を露わにすることが珍しかったといえる。

 親子とは言ってもどこかで一線を引いて、俯瞰で物事を捉えていた。

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