家族としてみられたパワー
そこからしばらくして、小休止を得たのは第8巻にて闇の悪魔との戦闘を終えてからである。
地獄にて闇の悪魔と邂逅したパワーはその恐怖をしばらく抱えて暮らすこととなる。
あちこちに潜む闇を常に怯えるようになったため、デンジに見守ってもらうという安心を求めるようになる。
添い寝を求め、身体的な温かさを求め、ついには一緒にお風呂に入るよう頼むまでに至る。
しかし、この時はデンジが心底求めていたシチュエーションにかなり近い。
女性とここまで親密な距離感でいられるのは、デンジの性欲で考えると相当興奮するものであるはずだった。
身体的接触だけではなく、裸で女性とお風呂に入るのは最高だろう。
そんな状況にも関わらずデンジには欲情しているような描写はない。
あれだけ求めていた女性の体に対して、デンジはほとんど性欲を感じることなく淡々と対応している。
「ポチタ……
エッチな事は相手を知れば知るほど気持ちよくなるってマキマさんが言ってた。
でも…パワーの事はすごく知ってるのに
何か全然エッチな感じはしないんだ」
『チェンソーマン』第9巻 第71話「お風呂」
このことから、デンジはパワーのことを「女性」ではなく「家族」として捉えていたと考えられる。
デンジはパワーと過ごす時間が多くなったがために、彼女の様々な面を知ることができた。
苦楽を共にすることで女性という枠を遥かに超え、親密な関係へと発展したのであった。
だからこそ、デンジはパワーに対して性的興奮を抱くことなく、むしろ妹のような存在として大事にしたい気持ちが強くなったのだろう。
このパワーを家族として捉えていたというのは、マキマとの会話からも伺える。
ほぼ時を同じくして、マキマから延期していた旅行へ2人きりでいかないかと打診される。
出会ってからずっとラブコールを送っていたデンジにとっては喉から手が出るほどのチャンス。
「超行きます」と即答するデンジであったが、パワーの事を思い出すとその理想的な提案すら断ってしまう。
このことからもデンジには憧れの人物であったマキマの誘いを断るほど、家族であるパワーを大事にしたいという思いがこみ上げていたように見受けられる。
つまり、デンジにとってパワーは妹同然の家族で会ったのだ。
この部分についてはマキマも鋭く指摘をしている。
「デンジ君と仲良くなってくれそうな家族も用意した。
早川君は良いお兄ちゃんになってくれたし、
パワーちゃんは世話の焼ける妹になってくれた」
『チェンソーマン』第10巻 第82話「朝食はしっかり」
つまり当初ころ女性という視点でパワーをみていたデンジであったが、生活を共にすることでデンジはパワーを家族としてみるようになった。
ポチタを失い、家族がいなくなったことで孤独になっていたデンジにようやく家族ができたのであった。
パワーが家族ということにデンジ自身は気づけていなかったが、この家族ができたという事実はデンジにとって何よりも大切な事であったといえるだろう。

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