【本屋大賞】『ひと』 著:小野寺史宜【感想・レビュー】

小説

 今回は小野寺史宜の著書『ひと』の感想・レビューについてまとめていこうと思う。

あらすじ

 高校生の時に父を亡くし、母と二人で暮らしていた柏木聖輔。上京して大学に通うも、大学2年生にして母まで無くしてしまう。金銭的に厳しくなり大学を諦め中退するも、就職先も決まらない。

 そんなあるとき揚げ物の匂いに惹かれ「おかずの田野倉」の前に立ち止まる。買おうと声をかけるもサイフのなかにはお金がなく、うろたえてしまう聖輔。見かねた店主はメンチカツの代金を負けてくれた。アルバイトの張り紙に気付き、この出来事に縁を感じた聖輔はバイトをさせてほしいと頼み込む。

 家族がいない孤独でありながらも、仕事を通して「ひと」と繋がる大切さを描いた人情味あふれる一作

 

感想・レビュー

孤独とは

 まず本作を語るにあたって着目してもらいたい部分は、「孤独とは何か」という部分である。主人公の柏木聖輔は高校2年生のときに父を亡くしている。そして上京中の大学2年生で母まで亡くしてしまう。

 そして親戚もほとんどいない聖輔は独りになってしまった

 ただこの作品の良いところは、聖輔は家族を失ってしまったがいつまでも独りではなかったということである。

 周りも手を差し伸べ、聖輔もまた手を伸ばすことで孤独から脱却できたのである。

 まず代表的なものは「おかずの田野倉」である。

 サイフにメンチカツを買う120円すらお金がなかった。たったそれだけの理由から生まれた縁ではあるが、おかずの田野倉の店主・督次さんと一緒に働くことになる。

 働くだけとはいいつつも、やはり聖輔は人との縁を大切にしていた

 その象徴的な出来事は「おかずの田野倉」で働くパートの一美さんの息子に、聖輔が使用していたベースをあげたというエピソードであろう。

 聖輔は本当にお金がない人物として描かれ続けていた。小説1ページ目から「昨日の午後六時にイオンのPBカップ麺を食べたのが最後」という文面があることからも、お金がないということが何となくわかってしまう。

 そこからすぐにメンチカツ120円すらサイフに入っていないことが明らかになる。また食費は1日500円、一か月で15,000円と自分自身で設定している。決して裕福といえる値段設定ではないだろう。500mlの缶ビール2本を買うことや月に一度のラーメンも贅沢。

 私の金銭感覚からしてもなかなかに節約をしていると思う。そんななか、親戚を名乗る基

志さんから10万円をせびられ手渡してしまう。

 これは聖輔からしたらとんでもない大金であることは間違いない。

 この聖輔という青年は高校時代からバンドを組んでいた。文化祭で演奏するなど活動はしており、大学でもそれなりに活動はしていたようである。しかし家計が厳しくなり、ベースを売ることを考えるも、購入時には50000円だったベースが3000円という安値で査定され、売ることを保留にする。

 金銭的に厳しく、常に節制してきた聖輔が10万円という大金を手放すことになるが、その後「おかずの田野倉」のパート仲間である一美さんの息子準弥くんにベースを譲るのである。

 例え売っても二束三文にしかならないとはいえ、聖輔にとっては貴重なお金。さらには青春時代の思い出が詰まった楽器である。

 聖輔は苦しい状況の中で、心の拠り所ともいえる楽器を「譲る」という選択ができるのだ。

 あくまでも人との繋がりを大切にしたという部分が素敵だなと思う。お金では買うことができないこの関係性が家族とも似たような親密性を描いている部分が良いところである。

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