照夫と葉ちゃんが付き合うこととなった年、二人が付き合う直前の事。葉ちゃんは照夫にプレゼントを持っていこうと照夫が通うダンス教室に向かう。そこで後輩女子の泉美と仲良くしている姿を目撃し、怒って帰ってしまう。
バー・とまり木で照夫のことを相談する葉ちゃんであったが、そこでアドバイスを受けた葉ちゃんは照夫のバイト先である水族館に閉館後にも関わらず侵入する。
照夫にしてみれば気になっている相手・葉ちゃんとしばらく連絡を無視されており、自分の誕生日にダンス教室を訪れてくれたにも関わらず「後輩の女の子からプレゼントを受け取る」という最悪の現場を見られ、帰られしまっている状況。
そんな中、彼女のほうからわざわざ自分に会いに来てくれる、「誕生日に会うことを一度は諦めたが、それでも会いたいからバイト先(しかも閉館後)まで出向く」という行為は、言葉で示す以上に「好きだ」という葉ちゃんの想いを愚直ではあるが実直に伝えている。
つまり「愛を言葉で表現する」葉ちゃんが、「愛を態度で表現する」側に寄り添ったのである。
その帰りのタクシー。降りようとする葉ちゃんの手を掴んで照夫は告白を試みる。
「すごい仲良くなっちゃったからさ、伝えたら壊れちゃうんじゃないかと思って。でもちゃんと伝えたいと思って」
「恋愛映画みたい。いまここは良い音楽が流れてるシーンだよ」
「いやだ、だから、ちゃんと伝えたいなって」笑
「いやなんか、ちょっと変な感じになった」
「え?」
「なんでもない」
「え?」
「なんでもない」
Ⓒ『ちょっと思い出しただけ』製作委員会
真剣に告白をしようとする照夫に対して、喜びとワクワクから茶々ををいれる葉ちゃん。場の空気が変わったため告白を断念する。
しかし、そこに突っ込んだのがタクシーの運転手。
「なんでもないってことないでしょごめんなさい、ね。でもいえるうちにいっておいたほういいですよ。メーター止めましたから」
Ⓒ『ちょっと思い出しただけ』製作委員会
そういって、タクシー運転手の男性は車外にでて夜風にあたる。なんともダンディーな対応。
「だから帰ってほしくないなって思ってて。なんかそうやって心の声全部でちゃうところとか、考える前にこうどうするところとか、自信がないのに、強気になるところとか、すぐ笑いだすところとか、すぐ踊りだすところとか、その変な声も大好きだし、野原葉って名前も」
Ⓒ『ちょっと思い出しただけ』製作委員会
本当に照夫らしくはない素直さを露にする。しかしこれが良かった。
ここでは「愛を態度で表現する」照夫が、「愛を言葉で表現する」側になったのである。
ここで葉ちゃんは言葉の途中にもかかわらず、無理やりキスをする。仕方なく言葉を止める照夫。
「え、続けてよ、その話」
「だから……」
Ⓒ『ちょっと思い出しただけ』製作委員会
本編ではここで暗転してしまうが、ここで告白をしたことは間違いないだろう。
ここでもキスをすることで「愛を態度で表現する」葉ちゃんがみられた。
この二人が付き合えた要因はお互いに寄り添い合っていたからであり、たまたまその時期に波長を合わせることができたからに違いない。
まとめ
もちろんここでは解説するため「言わなくても伝わる」/「言わなきゃ伝わんない」、「愛を態度で表現する」/「愛を言葉で表現する」という二元論で語りはしたが、照夫と葉が常に一方の立場ではなかっただろう。
しかし、照夫は「愛を態度で表現する」、葉ちゃんは「愛を言葉で表現する」という恋愛観は潜在的かつ根幹的に存在していたのだと考える。だから齟齬が生まれるというのは必然だったのかもしれない。
それでも一緒にいようとお互いが努力し、一時でも良い人生を歩もうとした二人の健気さと誠実さは美しい。
そして何より、価値観が全く異なる二人だから過ごせた年月であり、この歳月を経てしか得られない思い出だと思う。
またこの月日を遡るという映画だからこそ、照夫と葉ちゃんに2人の物語としては悲しみから幸せに戻れる素晴らしい映画である。おかげで鑑賞後には感情がグチャグチャニなってしまった。
特に二人が同棲したときの甘い時間と、付き合う直前の初心でドキドキ感のある青春がたまらない。
本当にいい作品でした。
まだまだこの作品については解説やレビューがしたいのだが、長くなってしまったので続きはまた次回……。
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