【あらすじ・見どころ解説】『夜のピクニック』恩田陸/新潮社【第2回本屋大賞】

小説

あらすじ

  融と貴子は同じ学校に通う普通の高校生。二人の間にある問題。

  それは二人が異母兄弟ということ。 

  融の父親は不倫をし、その結果生まれた子が貴子であった。

  そんな二人は奇妙な偶然から、同じ高校になってしまったのだ。

  高校3年生になり同じクラスになっても、気まずさからお互いを避けてきた二人。

  そんな中、高校最後のイベント「歩行祭」が始まる。この「歩行祭」は朝の8時から翌朝の8時までクラスごとに歩くイベント。

  クラスという枠組みから、どうしても話さなくてはいけない場面があり、それを機に融と貴子はお互いの関係について考えるようになる……。

 高校最後のイベントという青春を舞台に、思春期ならではの人間関係の葛藤や恋愛感情を叙情的に表した一作


見どころ

  恩田陸さんと言えば『蜂蜜と遠雷』にて第156回直木三十五賞・第14回本屋大賞のダブル受賞をしたことでも知られています。

 中でも『夜のピクニック』という作品は、「第26回吉川英二文学新人賞」「第2回本屋大賞」と作者の恩田陸さんが初めて賞を受けた作品になります。

 それでは、この本の見どころを解説していきたいと思います。

見どころ①

 この小説を語るうえでかかせないのは、まず高校生らしい青春を描き出していることです。

 高校生の時を振り返りながら読みましたが、少し下らない会話だったり、ちょっとおかしなところを真面目に考えてみたりと、「らしい会話」が繰り広げられていてどこか懐かしさを感じる内容でした。

 また高校生という、人生における大きな分岐点で悩む姿にも注目していただきたいです。

 多くの人が別々の進路を目指し、そしてバラバラになる少し前の時期の寂しさと物足りなさが丁寧に描かれています。

 さすがは「ノスタルジアの魔術師」と呼ばれているだけのことはあるなと思います。

 青春の場が失われつつある「高校生」という立場の哀愁を上手く表現しており素晴らしいと感じました。


見どころ② 人間関係の難しさ

 この小説の一番の見どころは、融と貴子の関係性が移りゆくところです。

 関係が関係だけに事実をすんなりとは受け入れられず、血縁関係でありながら直接の関係性はないという独特な距離感。「不可侵」という言葉が似合うように、二人は学園生活において完全に世界を住み分けていました

 ただ高校最後のイベント「歩行祭」を通じて、ぎこちないながらも少しずつお互いを理解していく様は微笑ましですね。 

 

 また初めの段階では、融は父親を奪われた・貴子は父親を奪ってしまったという思いをそれぞれ感じていたため、「融は正義」・「貴子は悪」というフィルターを通して物事を見てしまいます。

 実際には、当事者ではない二人が罪を感じる必要はないと思いますが、序盤~中盤にかけては正義と悪という対立に似た感情が表現されています。

 そのため「融側から見た貴子」「貴子側から見た融」という2つの視点から進むストーリーとなっており、作品の奥深さを感じられる構成となっています。


総評

 

 人はそれぞれ悩みを抱えて生きています。

 その悩みのなかには自分の力では変えることの出来ない、「家族」という問題があります。

 本作は、受け入れたくない事実と受け入れなければならない現実という題材を輝かしく儚い高校三年生最後のイベントにおいて表現した作品になっています。

 物寂しさを感じつつも、将来と人間関係の希望が見え大変スッキリとした構成でした。

 読みごたえもある一押しの青春小説、ぜひご一読ください。

〈書籍〉

 恩田陸 『夜のピクニック』 (2006) 新潮社

 

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