この作品について
2018年本屋大賞で第2位に輝いた作品。
作者の柚月裕子の他作品は「このミステリーがすごい!」で大賞受賞など数々の賞を受賞、「弧狼の血」は第154回直樹三十五賞候補に選出されている。
あらすじ
とある山中で白骨化遺体が発見される。その遺体は、なんと600万円の価値があるとされる将棋の駒とともに眠っていた。その謎を解明するため、かつてプロ棋士を目指していた若き刑事・佐野は、ベテランで変わり者の刑事・石破とタッグを組んで調査を進める。
動機もわからぬまま、駒の出所のみを頼りに真実を目指す2人。誰の遺体なのか、何のために名駒と埋められていたのか。深まる謎を少しずつ紐解いていくと、ある人物のもとに辿り着く。
果たして何故このような事件が起きたのか。不可解な事件とある将棋棋士の半生が入り混じるミステリー小説。
見どころ
見どころ① 2つの時間軸
この小説は二つの時間軸をもとに展開されていく。
まずは刑事の佐野と石破による殺人事件を追う時間軸。
もう一方は、とある棋士の半生を追う時間軸。
初めは脈絡もないと思われる二つの時間軸だが、少しずつ物語が進むにつれ、過去と今の時間軸が近づき、交差して、やがては一つの大きな線となって結びつく。
この二つの時間軸が同時に展開されるため、刺激的で深甚なものとなっている。
点と点でしかない事実が線になる瞬間というのは、たまらなく気持ちいいものだ。特にミステリー小説では読み進める中での犯人探しが醍醐味、といっても過言ではないだろう。そうした楽しみがこの小説でもよく味わうことができる。
そしてそれ故、主観と客観という二つの視点から事件を見ることができる。
佐野・石破の時間軸では、客観的事実に基づいて事件を追い求めていく。先にも述べたように、事件解明に少しづつ近づくというワクワク感が探求心をくすぐる。
一方、とある棋士の時間軸では、白骨化事件にかかわる経緯をその半生を通じて描かれている。そのため、心情の変化だったり、事件にまつわるかなり深い部分まで神妙に描写されている。
見どころ② 癖のある登場人物
欠かせないのはクセが強すぎるおじさんメンバーだろう。一癖も二癖もあるようなおじさん達がぞろぞろと登場する。
ベテラン刑事・石破に関してもそうだ。頑固者ではあるが刑事としての腕はピカイチという石破に対して、初め佐野はどうも対処しきれない。頭を悩ます佐野ではあるが、次第に打ち解けていく。それでも少しデコボコしている二人のやりとりは何とも痛快だ。
それだけではない。佐野の知り合いの将棋関係者、聞き取り調査を嫌悪する者、賭博常連のアマチュア棋士……。どうやったら思いつくんだとばかりの、色濃いメンツが揃っている。そして、そんな変わり者同士の絡み合いも、見ている分には愉快である。私だったら絶対に関わりを持ちたくないが、そこも非常に面白いと感じた。
見どころ③ 二人の師
とある棋士の時間軸では、師に当たる人物が2人登場する。その三人を比べながら読み進めると一層面白いだろう。
2人の師は、それぞれが対照的な生き方をしており、本来なら関わることはないだろう世界に住んでいる。しかし、将棋という世界に生きている二人は出会うことはなくても、どこか通づるものがある。生き方と信念は別なのかもしれないなどと考えさせられた。
兎に角、二人の師が似て非なる、その類似と対比を探しながら読むと一層楽しめるのではないかと感じました。
まとめ
王道ミステリーであるながらも、癖のあるキャラクター陣と秀逸で奥深い設定が楽しめる作品である。
ぜひとも、ご一読いただければと思う。
〈書籍〉
柚月裕子 (2017) 『盤上の向日葵』 中央公論新社
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