作品について
2015年本屋大賞で第3位に輝いた作品。
2019年には舞台化がされ、2022年5月には吉岡里穂・中村倫也をはじめとした俳優によって映画化が決定している。
あらすじ
現代日本はアニメ戦国時代。
関係者は各クールで一番のアニメ・「ハケンアニメ」を目指して日々の仕事を懸命にこなしている。
中堅アニメ会社に勤務するプロデューサー・有科香屋子は、とある人物に憧れを抱いていた。それは日本の地上波アニメの歴史を10年進めた、と呼ばれた大ヒット作『光のヨスガ』を制作したアニメ監督・王子千晴だった。
「運命戦線リデルライト」という作品を通じて、「いつか王子千晴と仕事をする」という香屋子の夢は現実になる。
イメージとは裏腹に横暴で我儘な千晴に振り回され続ける香屋子。しかし、王子がアニメの作成に一切の妥協を許さないという信念を抱いていることを理解しだし、香屋子は「運命戦線リデルライト」でハケンアニメを目指すことを決意する。
仕事に生きる人間を描いた大人のための青春小説。
見どころ
見どころ① 愛のある作品
「この業界周りで働く人たちは、皆、総じて愛に弱いのだ」
この一文はおそらく辻村さんがアニメ制作の現場を取材した際の感想だと思います。
そもそもにしてアニメという産業は大きな矛盾を抱えています。
日本におけるアニメの立ち位置は輝かしいものとなっています。
映画業界で見ると、興行収入ランキングトップ10には『千と千尋の神隠し』『もののけ姫』『ハウルの動く城』といったジブリ作品や、『君の名は。』の新海誠作品がランクインしているなどアニメの人気が伺えます。
また最近では『鬼滅の刃 無限列車編』が興行収入400億円を突破し、日本の興行収入1位に君臨するなどその影響力は凄まじいといえます。
一方で、アニメーターの給与体制や労働環境は度々問題となっています。アニメ『鬼滅の刃』の制作会社であるufotableの代表・近藤氏は脱税事件を起こしましたが、その際にアニメ制作における賃金問題を話していました。
このようにアニメ自体の地位は向上していても、現場の環境は改善されていないという問題があります。
ではなぜそのような現場で働く人たちがいるのか?
それは「アニメが好き」ということに尽きるかと思います。
好きなものに一生懸命になれ、泥臭く努力していくカッコいい姿には痺れますし、気が付けば登場人物を応援してしまうような爽快感が特徴的です。
そんな「愛」に溢れた大人たちの仕事ぶりを堪能できる作品となっております。
ぜひ「愛」というテーマ性を感じながら読んでいただければと思います。
見どころ② 「ハケン」とは何か
タイトルにもある通り、アニメ業界の「ハケン」を巡る物語になります。
本作では「そのクールで一番パッケージが売れた作品」こそが「ハケンアニメ」であると定義されています。
しかし数字だけで「ハケン」は推し量ることができるのか、ということがもう一つのテーマになっています。これはアニメ業界だけではなく、すべてに通ずるテーマであると思います。
このように「一番とは何か」について議論がなされている点が見どころですね。
総評
ハケンを巡ってアニメに愛を持つ大人たちが真剣に仕事に取り組む姿勢がみられる非常にカッコいい作品になっています。
またアニメを小説で表現しようとする試みも面白く、実際にアニメが存在するのではないかというような作りこみがなされていて、世界観に思いっきり浸ることができた作品でした。
ぜひ、ご一読ください。
【書籍】
辻村深月 (2014)『ハケンアニメ!』 マガジンハウス
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