【感想/レビュー】『一ノ瀬家の大罪』【第9話考察】タイザン5

一ノ瀬家の大罪

翼の部屋にて

 まず翼によってパパ活の活動母体であったSNSが削除される。

 これによって詩織が現在抱える闇は解消できたと言っていい。

 ただ先ほども述べたが、問題となるのはパパ活に至った経緯である。

 それがわからなければ、本当の意味で次に進むことはできない。

 しかし、詩織の問題を解決できたということで一安心というべきだろう。


 それより詩織が興味を抱いたのは翼の部屋

 「死」という落書きで現れた翼の部屋は詩織の目から見ても不気味であり、異質な空間であった

 対して翼はその部屋について気にする様子はなかった。

 ここでは翼と詩織、二人のスタンスの違いが現れている。

 詩織は自分の過去を気にしていた。

 わけのわからない部屋で、知らない男性と会っているという謎の状況だ。

 事のいきさつを知りたくなるのも当然。

 一方の翼は自分の過去は気にしていない、というこれまでのスタンスは崩していない。

「いや別に良くね?思い出せなくても」

『一ノ瀬家の大罪』第9話「翼の救済」 作:タイザン5

 これは第1話にて過去を思い出したいと苦しむ詩織に話しかけた言葉と同じである。

 昔のことよりも大事なのは今というスタンスは変わりなく、たとえ記憶が戻らなくとも問題がないと考えている。

 むしろ家族との良い関係性を構築できていることを喜ばしく思っているようだった。

「そうだろ。やっぱり、家族は笑顔じゃないと」

『一ノ瀬家の大罪』第9話「翼の救済」 作:タイザン5

 波乱万丈ながら家族でカレーを作ったことが楽しく、そういう笑顔を絶やさない家族が好きという意味で翼は発言している。

 しかし、この発言には大きな裏を感じる。


 この翼の発言は記憶を失っても抱えている感情であることから、翼自身が潜在的あるいは幼いころからの価値形成によって獲得したものであると考えられる。

 そしてこの発言の裏を返せば「笑顔じゃない家族に価値を見いだせない」という可能性を感じる。

 これまでの話を踏まえると、一ノ瀬家では翼がサッカーを辞めなくてはいけない家庭の事情が発生する。 

 おそらくこれが翼が病んでしまった要因であるはずだ。 

 その中でも「家族が笑顔ではなくなってしまった」という要素が占める割合が多いように感じる。

 翼が潜在的に望む「笑顔が絶えない」という理想の家族像と、一ノ瀬家が招いてしまった「笑顔が一切消えてしまった」という現実の家族。

 理想と現実の激しいギャップ耐え切れずに翼は絶望し、病んでしまったと推測する。

 詩織が思い出した”壊れたカメラを背に立ち去る翼”という情景は、もうすでに笑顔を記録できなくなったことに絶望した翼という状況だと推測できる。


 さらにこれまで見てきたように翼はかなりポジティブな人間である。

 家族全員が記憶喪失という状況でも、”明るく楽しく思い出そう”をコンセプトに架空の思い出トークを提案する。

 また第1話・今回の第9話でも記憶を思い出さなくても幸せになれるよと詩織に助言をしていることからも、かなり前向きな様子が伺える。

 このポジティブで前向きな翼の人格はいつのものだろうか?

 第4話にて中嶋がいじめるきっかけとなった中学2年生ころの”人生に絶望する翼”ではなく、クラスで馴染めていなかった中嶋をサッカーに誘うような”明るくポジティブな翼”であることは間違いない。

 つまり「記憶を失っている現在の翼」がもつ”ポジティブで前向きな性格”は、”笑顔が絶えない家族”を望むことと同じように潜在的な翼の性格であることがわかる。

 この事実を逆説的に考えると“ここまでポジティブで前向きな翼ですら絶望に至るほどヤバい家庭の事情”が待ち受けているともいえる。

 人をここまで変えてしまう一ノ瀬家が起こしてしまった大罪とはいったい何なのだろうか。

 現時点では情報が少なく、考察できる余白は限られているが今後の展開に期待したいところである。


 そして先ほども少し触れたが、カメラというのも『一ノ瀬家の大罪』におけるキーワードである。

 第1話では自室にて詩織の誕生日を祝っているだろう集合写真の顔写真を黒く塗りつぶしている。

 また翼の机には一眼レフカメラが置いてあり、今回の第9話でも高そうなカメラと、度々登場している。

 このように翼がカメラに興味があったということは明らかだ。

 また先ほどの「家族は笑顔じゃないと」という発言からも、翼は家族が笑顔でいていくれることを幸せに感じていたはずだ。

 だからこそ家族の幸せそうな顔をカメラで記録することが好きだったのだろう。

 ただ「一ノ瀬家の家庭崩壊」が発生し、家族の笑顔を作エイ出来なくなってしまった翼はカメラを自ら壊してしまい、それが詩織の記憶に留まっていたのだと考えられる。

まとめ

 詩織との会話が弾んだことで、考察の余地が生まれた第9話。

 詩織の現在を清算しながらも、根本的な解決に繋がる事実については明らかにならなかった。

 ただ翼の核心部分に触れることで、よりいっそう「一ノ瀬家の家庭崩壊」がヤバいものではないかという創造だけが膨らんでしまった。

 現在の生活について翼・詩織と明らかになり、次回からは父・翔についてになりそうな展開。

 まだ明かされていない4人の中では翼との会話が多く、それなりに情報が出ている翔がどういう状況なのか。

 次回も記事にてまとめる予定なのでぜひとも!

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