夏油に訪れた変化
さて、その青春が崩れ始めるきっかけというのが「懐玉・玉折」編で描かれる夏油との決別である。
そのためにはまず夏油の心情について深堀りする必要がある。
夏油傑の価値観
まず夏油傑の価値観についてである。
「懐玉・玉折」の序盤で語っているように夏油は「弱者生存」を信条に掲げていた。
「呪術は非術師を守るためにある」という言葉に現れるように、力を持つ術師が世界の均衡を保ち、支えなくてはならないという思想である。
おそらくこれは彼が小さなころから刷り込まれてきただろう価値観である。
しかし天内理子の死を通して、夏油の価値観は揺らぎ始める。
呪力とは誰のための力なのか、という部分について自問自答を繰り返す。
まずもって天内理子は自らが望んで星漿体になろうとしていたわけではないということだ。
星漿体に成りうるポテンシャルをもつ人間を天元が見つけてきたにすぎない。
彼女は星漿体になることは素晴らしいことであると熱く語っていたが、夏油と薨星宮・本殿を訪れたときにはまだ死にたくないと本音を吐露している。
実際のところは自らの死に意味をもたせ、不条理な人生をどうにか正当化させなければ到底受け入れがたい運命であったのだ。
つまり天内にとっては完全な巻き込まれ事故であり、全く望んでいる行為ではなかったといえる。
日本の安全と秩序を維持するために命を捧げることに関して、天内は夏油に声を掛けられるまでは完全に覚悟を決めきっていた。
そんな彼女はそんな真っ当な理由とは正反対の、宗教団体の保身と金のためだけに殺されることとなる。
さて、問題となるのはその利権と利益を貪るための団体も夏油が守らなくてはいけないと考えていた非術師であるということだ。
つまり夏油視点で考えると、そんなクズを助けるために我々は命を賭けなくてはいけないのかという思考に陥ったのだ。
無垢な中学生が命を擲とうとする残酷なレールが敷かれている。また親友の五条もギリギリのところで死を回避することができた。
その先で待っているのは自らの平和と保身だけを望む非術師。
果たしてそこまでの価値があるのかという天秤にかけだしたのだ。
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