【2020年本屋大賞】『ライオンのおやつ』作:小川糸【書評・感想】

小説

生きるとは

 では生きるということはどういうことか。

 余命というリミットがある以上は大層な夢を語れるわけでもない。

 また体力の制約があるため自分一人でできることには限りがあるだろう。

 そんな中で「死と向き合う」、すなわち「生と向き合う」ということはどういうことだろうか?

 それは日常の小さな希望を重ねることではないかと感じた。

「そう、死んだ後のお楽しみ。

 今も、ライオンの家にいっぱいあるよ。

 馬の前に人参ぶら下げて走らせるみたいに、朝のお粥とか、昼のバイキングとか、

 夜の一汁三菜とか、日曜日のおやつの時間とか。

 なんだか全部食べ物関連だけど、そういう人参が、いっぱいぶら下がってる。

 だから、その延長で、死んだ後にもお楽しみがあったら、救われる気がするの。

 それに向かって、それ欲しさに前に進めるっていうか」

『ライオンのおやつ』P90-91 著:小川糸 発行所:ポプラ文庫

 これは雫のように余命を宣告されたかどうかに限らない。

 普通に生きていたとしても、耐えがたい絶望に阻まれることは幾度となくあるだろう。

 そうしたときにどのように絶望に立ち向かうべきなのかは、同じように小さな希望を積み重ねていくしかないのだ。

 生命力を感じる自然や人と触れ合う。相棒といえるワンコと時間を共にする。

 少しだけの恋愛感情を楽しむ。そして美味しいご飯を食す。

 そうした日常に潜むわずかな希望を紡ぐことで、生きる糧へと繋ぐ。

 もちろん頑張るということも大切ではある。

 社会を生き抜くうえでは多くの試練があるわけで、特に自力で生活するためにはそれなりの努力をし、肉体と精神をすり減らしながら日々を闘っている。

 ただ日本人にはもっと休息が必要なのかもしれない。

 それは「ライオンの家」に毎週訪れる「おやつの時間」とよく似ている。

 何かしらの楽しみがないと人生はつらいことばかりだろう。

 自分自身にもご褒美を設けてやらないと、心も体も疲れ切ってしまう。

 そのようなチェックポイントが人生には必要なのだと思った。

 そんなこんなでまた月曜日から頑張りましょう。

 

 

 

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