中嶋の失墜
さて、今回の第3話では学生時代のいじめのリアルさと陰湿さを描いている。
今回の中嶋はそれが失敗したケースである。
まず第3話序盤では第2話に引き続きいじめが実行されていたが、後半では翼から反撃を喰らってしまう。
翼は中嶋へモノを取りに行けと命令し、強めの言葉で反論するのだ。
これについては中嶋も想定していなかった事態であることは間違いない。
完全に呆然としていたし、普段(記憶をなくす前)の翼からは考えられない行動だろう。
何よりいじめていた相手から攻撃されるとは頭の片隅にもないだろう。
権力者のいない場所
さて翼が中嶋に言い返した翌日。
翼と読者が待ち受けていたのは思いもよらない現実であった。
よりいじめが悪化するのでは、なんて思っていたが実際はその真逆。
中嶋がいじめの標的になったのだ。
先ほど書いたようにスクールカーストは不明確で変動的だ。
だからこそ中嶋が地位を維持するには正当性とカリスマ性が必要であった。
しかし正当性という面では中嶋が話した「気持ち悪い」と主観に対し、翼は「チビ」「ダサパーカー」など主観でぶつけ返すのだ。
この時点でいじめについての疑念が周りで生まれ始める。さらにサッカー部の先輩も翼側についてしまう。
こうなればいじめの正当性を失うも同然だ。
さらにいじめる対象に噛みつかれたとあってはカリスマ性も失う。
そうした意味でも中嶋は「いじめの実行犯」という名の出る杭となったのだ。
より残酷な部分は中嶋の取り巻きだと思っていたヘアバンド、金髪チャラ男、七三が中嶋をいじめる立場に変化したという点である。
仲が良さそうに見えただけで結局は浅い関係性でしかなかったのだ。
さらに、「ナイッシュー中嶋~」「サッカー部の誇り出ちゃったね~」というセリフがあることから中嶋がサッカー部であることがわかる。
対して七三は次のようなセリフを話す。
「サッカー部のやつがストーリーにあげててさ、『ゴミクソクソヤロー‼』先輩が喜んじゃって部内でブームなのよ」
『一ノ瀬家の大罪』第3話
少なくとも七三と中嶋は同じ部活であることがわかる。
同じ部活の仲間、昨日まで同じ標的相手に遊んでいた仲間を平然と売るのである。
友情という名前を形どった薄っぺらい関係性が妙にリアルだ。
友達に近い存在でありながら、あくまで部活仲間・学校間の関係でしかない。
もう一つ着目すべきポイントは、七三が『サッカー部のやつらがストーリーあげてて』と語っている点だ。
ただ第2話でも話したように七三は常に翼の動画を撮っていた。
それは第3話でも変わらず、翼の荷物を川に捨てたときに撮影を続けていた。
そして翼が中嶋に言い返すときにも、動画を撮影する七三らしき人物が写っている。
つまり一部始終を撮影したのは七三でほぼ間違いないのだ。
それを『サッカー部のやつらがストーリーあげてて』と責任の所在を明らかにしない。
自分に責任がないことをアピールし、「出る杭」になることを避けている。
またクラスメイトの誰かが(話の流れ的に七三である可能性が高いが)、「今日朝練でシメられててさ~。どーする一ノ瀬?」と中嶋の処遇を求めるシーンがある。
ここでも中嶋をいじめる主犯であり責任の所在を翼にしようとする企みが伺える。
七三は聡明だからこそ良く言えば自分に害が被らないように賢いやり方、悪く言えば意地汚い最低な人物である。
実際、クラスで寄せ書きという名目で行う落書きも傘連判状式になっている。
つまり主犯が誰かわからないように円状に文字を書いているのだ。
こういう細かい部分から考えても、いじめを裏で操る人物がおり一層陰湿だ。
人間の意地汚い部分も描いているのがよりこの作品の奥深さを演出している。
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