呪術師を辞めること
七海の呪術師人生において大きな転機は間違いなく灰原雄の死である。
おそらく七海の人生にとって最大の不幸であった。
高専生として2年目を迎えた夏、唯一の同級生であった灰原が命を落とす。
なんてことない2級案件のはずが、産土神信仰である土地神がかかわる1級案件であった。
このときの任務は五条が引き継ぐこととなるが、七海は夏油に対して次のように発した。
「……もうあの人1人で良くないですか?」
『呪術廻戦』9巻 第77話「玉折-弐-」
先ほども述べたが1級術死の時点で呪術師全体の一握りの存在。
そこに対して、五条や夏油はその1級術死の中でも突出した存在なのである。
特に五条については3年生の時点で”最強”となっている。
七海のような1級術師がどれだけ体力と精神を削り、命を危険にさらしたところで五条悟に並ぶことは決してない。
また七海がどれだけ苦戦し、仲間たちの死を犠牲にした相手だとしても、五条悟にとっては取るに足らない相手でしかない。
自分の努力だけでは覆らないどうしようもない現実に悲観した末、本心が溢れてしまったのだろう。
「術師を続けるなら五条さんと自分を比べないことです。
あの人は自分が苦労して出すクリティカルヒットをジャブ感覚で出します。
端的に言うと『やってらんねー』……です」
『呪術廻戦』 第231話「人外魔境新宿決戦⑨」
努力だけではどうしようもない力の差と現実。
そしてその力がないからこそ救うことができなかった親友の命。
そうした結果、七海は呪術師を辞めてサラリーマンになるという道を選ぶ。
ここまでの思考は夏油と非常に似ている。
一般人のために自分たち呪術師がどれだけの苦しみを背負わなければならないのかということに対して両者は同じ疑問を抱いていた。
また術師同士、術師と非術師における力のアンバランスさについても嘆いていた。
2人とも同じような課題に苦しんでいたが、七海は呪術界そのものから抜け出すという選択をし、夏油は呪術界ごと壊すという道を選んだ。
結果として選んだ道は違うこととなったが、七海が夏油側につくことも可能性としては大いにありえた。
実際、公式ファンブック内で呪詛師となった夏油に対して「責める気にはなれない」という回答の仕方をしており、状況次第では呪詛師となっていた七海も考えられた。
いずれにしても、七海は覆すことのできない現実と呪術界に蔓延る矛盾が原因で呪術師を辞めることを決意する。
コメント