玉狛第2の課題
ラウンド2・3とオサムの作戦が見事に刺さった試合であった。
数字でみても結果は明らかで、確かに評価できるポイントは多い。
しかし課題はまだまだ残ってしまう。
大きな問題は「個々人の力」である。
それは「空閑がタイマンで勝てる」という前提についてもそうであるし、「オサムがサシでは勝てない」「チカが人を撃てない」という部分でも同じである。
このことについて話すためには、空閑の戦闘能力についてまとめる必要がある。
ラウンド1ではB級下位チームであったため吉里隊を3人同時に倒すことに成功している。
またラウンド2ではB級中位グループとの戦闘であったが、荒船相手に苦戦を強いられるもの有利に展開していた。
しかし、ラウンド3にていよいよ空閑がタイマンでも厳しい攻撃手ランク4位の村上が登場する。
模擬戦の10本勝負では負けており、なおかつ村上のサイドエフェクト「強化睡眠記憶」を反映した後半5本は全く手出しができなかった。
空閑自身、あれ以上続けていたらもっと差がついていたと話していることからもかなり手ごわい相手だといえる。
ラウンド3では勝利こそするものの、地の利を生かしたギリギリのところであった。
結果的に勝利ができたおかげで有利に試合を運べていたが、空閑が敗北することも考えられる。
実力を考えて格上相手とぶつかった時には敗北の可能性があるが、ランク戦においてはそれ以外のパターンも当然考えられる。
銃手・射手で距離をとったまま殴られる、狙撃手による一発KOなどリスクはさまざまあるはずだ。
またこれまでの戦闘では基本的にサシ、あるいは三つ巴の戦いであった。
うまく誘導ができた・作戦が効果的であったという要因は考えられるが、空閑単体が一部隊に狙われる・数部隊による混戦などイレギュラーが起こることもありえるだろう。
空閑が落ちた場合にはオサムかチカで得点を重ねなくてはならないが、チカは人を撃つことができない。
何よりオサム自身がB級隊員相手に渡り合えるだけの膂力は持っていない。
「単品でまともに戦える駒がクガしかいないんじゃ結局B級止まりでしょ。
クガがやられたらおわりなんだから」
『ワールドトリガー』11巻 第92話「宇佐美栞」
オサムのこれから
玉狛第二には空閑以外に戦える人物がどうしても必要という課題を抱えている。
その中でも前線で戦うこととなるオサムの力は欠かせない。
確かにこれまでの戦いぶりをみてもオサムは成長している。
特に第3話で瞬殺されていたバムスターを大規模侵攻編にて倒した事実は何よりの成長の証だ。
しかし、サシでの戦闘力はB級内では下位に位置するというのが現実だ。
ラウンド3にて那須はオサムのことをいつでも倒せる相手だと評価している。
玉狛第2の地力の弱さについては二宮も言及している。
「あのメガネは戦術をかじっただけの雑魚だ。
戦術と戦闘どっちもいける奴には勝てない」
『ワールドトリガー』12巻 第103話「玉狛第2⑦」
ラウンド2・3共に、オサムは戦術としての貢献度は非常に高いが、戦闘に関しての貢献度は非常に低い。
ラウンド2についてはマップ決めという重要な作戦を考え、味方との合流を優先・あえてオサムは位置取りで相手を上手いこと威嚇するという戦術をとっている。
しかし戦闘面での実績をみると無いに等しい。最後の最後、諏訪を倒しポイントを手には入れているが、いわゆるごっつぁんゴール。
オサムの力だけで倒したとは到底言い難い。
第3ラウンドでは那須や来馬たちとの実力差を考慮し、耐久することを選んだオサム。
この場においては結果として正解の判断ではあった。
しかし、勝てたのはあくまでも結果論。総合力では劣っているというのも事実である。
攻撃手ランク4位の村上相手の模擬戦で負け越していたことを考えると、空閑が負ける可能性も十分考えられた。
なおかつ空閑が落ちてしまえば、玉狛第2は点を獲ることができない。
そのため玉狛第2が勝つ術としては「対岸で空閑が勝利する」、「それまでの間にオサムは攻撃を耐え忍ぶ」という選択肢しか残されていなかった。
しかし“那須相手に頑張れば勝てる可能性があったが、戦術として耐久戦に持ち込んだ”と”戦術として耐久戦に持ち込むしかなかった”とでは天と地ほどの差がある。
那須自身はオサムをいつでも倒せると話しているが、事実としてかなりの実力差があった。
逃げ・守り・攻撃の単調さを見抜かれてしまい、全てにおいて那須のほうが一枚上手。
「那須にとって三雲は一対一ならいつでも倒せる相手で」
『ワールドトリガー』12巻 第103話「玉狛第2⑦」
このラウンド2・3を経てのポイントは「空閑が落ちたらどうするか」「戦術がハマらなかったらどうするか」という部分で、そのためにもオサムとチカがいかに渡り合える戦力になるかがカギとなる。
「……昨日もまたクガ頼みの試合だったね。
キミがやったのって大砲の子に指示出したくらい?
太刀川さんはトリオン切れ狙いを褒めてたけど
実力で点が獲れないんじゃ先がないでしょ」
『ワールドトリガー』12巻 第104話「玉狛第2⑧」
菊地原に苦言されるように、自力で点を獲ることができないオサムへの評価はかなり低い。
そしてオサム自身もその課題については理解しているようであった。
「わかってます。空閑一人に頼って勝手行けるほどB級は甘くないって。
足を引っ張ているぼく自身がもっと強くならないと……」
「強くなる?どうやって?」
「それは……もっと訓練して……」
「追いつける気でいるんだ。傲慢だね」
『ワールドトリガー』12巻 第105話「アフトクラトル④」
もともと点を獲れないという自覚はありつつも菊地原からかなり厳しい指摘を受けたオサムは烏丸への指導を本格的に依頼する。
あくまで空閑でしか得点が獲れないこと、戦術頼りになってしまったことを痛感していたオサムは戦力になることを願ったのだ。
しかし烏丸は実践的な技を教える段階ではない、下手に教えると裏目に出てしまう可能性があるという理由から教えずにいた。
それから烏丸の紹介を受け嵐山・出水のもとを訪れるオサム。
一人でも点を獲れる方法を尋ねるも、射手・銃手は一人で点を獲る必要はない・難しいと嵐山は話す。
また出水は自分以外が全滅する可能性を考慮して将来的に戦える強さを身に付けるべきだと話すが、すぐさま教えることはせず、唯我に100勝したら合成弾の作り方を教えると話す。
しかし42勝152敗、勝率でいうと21%。合成弾の作り方は教えてもらえずにランク戦当日を迎える。
弾の当て方がわかってきたとは言うものの、唯我と初めて戦った際の勝率が2割であったことから差を極端に縮められるほどの急成長は見られなかったといえる。
当然のことだがたかだか数日の練習では自分の急成長に直結はしないのだ。
嵐山や出水からアドバイスは貰いつつも、指導者はみなオサムの実践値不足を指摘していた。
練習だけでは身につかない、戦いと時を経て身につけるような経験則が必要であったに違いない。
そんな中途半端な状況の中、ラウンド4に向けて気合を入れる。
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