感想
マリコの本音とシイちゃんの背景
本作はシイちゃんがマリコの死を知ったことで、マリコの実家から遺骨を強奪、そしてマリコが望んでいたまりがおか岬へと向かうというものだ。
その中で何度も訪れる回想シーンでは過去のマリコに想いを馳せる。
過去を振り返ることでマリコの様子を伺うことができるが、実際には回想全てが“マリコの現状”と”シイちゃん目線のマリコ“であることに注目したい。
マリコの現状という点から見ていこう。確かにマリコの生活はかなり悲惨なものとして描かれてきた。
父親から受けていただろう日常的な暴力だけに留まらず強姦されていたという事実、そして彼氏が家まで来ていてもシイちゃんが警察を呼ぼうとしてまで追い返さなくてはいけないという様子。
これだけでもマリコの人生は非常に荒れていたことは間違いない。
客観的にみてもヤバいということだけははっきりわかる。
ただそこの部分について、実はマリコの感情があまり乗っていないというのも事実だ。
あくまでもシイちゃんから見た過去のマリコを映し出しているに過ぎない。
マリコ自身の内側に潜む感情の塊が吐き出されてはいないのである。
だからこそ主観ではなく客観的にしか見れないもどかしさを視聴者は抱え、自身の感性を頼りにマリコとシイちゃんの過去を推し量るという非常に感情に訴える作品であるといえる。
それらを踏まえ、私からみたマリコという人物は“風に吹かれ揺られながらも強く進もうとする人物”である。
暗い青年期がありながらも、決して”死”という選択を安易にしなかった。
その一番の要因はシイちゃんという存在である。
彼氏がいるときには連絡をしてこないということから、自分を支えてくれる人物であればきっと誰でもよかったのだと思う。
ただ最終的にはシイちゃんのもとに戻ってきていたし、2人はそれを受け入れられるだけの関係性でもあった。
そして、頼りになる存在を繋ぎとめることで一日一日を耐え忍び、懸命に生きていたのだと考えられる。
これまで何とか繋ぎとめてきたかすかな”生きる”という糸が、ふとした拍子に切れてしまった。
それが今回迎えた死の要因ではないかと私は考えた。
2つ目に回想シーンが“シイちゃん目線のマリコ”であるという部分だ。
マリコの重く苦しい過去に着目しがちであるが、シイちゃんの過去や生活という部分の多くをスルーしている。
中学生のころには両親が離婚していると話していることから決して円満な家庭で過ごしてきたとは言い難い。
またそのころにはすでにタバコを吸っている非行少女であったことを考えると、何かしらグレるに値する要因があったのかもしれない。
このようにマリコだけではなくシイちゃん自身も苦しみながら日々生きてきたのかもしれないのだ。
ただシイちゃんはブラック企業と怖い上司に立ち向かい、何度もドアを叩くマリコの彼氏を追い返す。
またマリコ父に対しては、ドア越しとはいえ中学生女子と体格が満たないにもかかわらず強い口調で攻撃する。
そしてマリコの実家にてクサい演技でマリコの義母を騙し、マリコの遺骨を強奪するなど大胆さをみせる。
このようにシイちゃんは強い精神力があったからこそ、過酷な環境に耐えられてきたのかもしれない。
ただシイちゃんが強くいられたのはマリコという存在がいたからなのかもしれない。
マリコという存在は細く弱々しい生き物であった。
父親に虐げられ、彼氏にも良い対応されず、ただ耐え忍ぶ生活が続いた。
シイちゃんは不安定でどうしようもないマリコを守ってあげなくてはいけないという使命感を感じていたのかもしれない。
マリコのことを何度もめんどくさいと感じていながら、それでも中学生のことから大人になるまでずっと一緒にいた。
離れることも当然できたはずだ。それでも一番近くにいたのは頼りにされることを求めていたのかもしれないし、お互いがお互いの足りない部分を補完しあえていたのかもしれない。
だからこそマリコにとってシイちゃんは生きる支えであったが、シイちゃんにとってもマリコが生きる支えであったのだろう。
シイちゃんとマリコが猫を飼いたい・飼うなら保護猫と発言したことは、同じように精神的支柱となるものが、そして現世で生きていかなくてはいけない理由が欲しかったのではないだろうかと思う。
2人だけではなく、もっと補完し合える存在を求めていたのだと思う。
また保護猫と指定したのも、自分たちのように恵まれない、選ばれなかった立場のものを大切にしたいという心情の表れであると解釈できる。
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